皆さんは最近、映画館に足を運んでいますか?私はホラー映画が苦手です。だから「今週末、何か観に行こうかな」と上映スケジュールを調べるたびに、こう思います。「ホラーばっかりで、観たい映画がない!」。でもこれは気のせいではありませんでした。調べてみると、アメリカではここ数年、ホラー映画の本数も興行収入シェアも確実に伸びています。理由はシンプル、儲かるからなんです。統計分析によると、全ジャンルの中でホラー映画の利益率が最も高く、劇場公開されたホラー映画の半数以上が製作費を回収して黒字になっています。ドラマ映画では黒字になるのは約3分の1。スタジオにとって、2億ドルのスーパーヒーロー大作に賭けるより、数百万ドルのホラーを複数本作る方がはるかに安全な投資なのです。
では、人気のホラー映画は誰が観ているのでしょうか?
2024年時点で、Z世代の90%以上がホラー映画やホラー番組を視聴しており、全世代の中で最も高い割合を示しています。SNSとの相性も抜群で、衝撃的なシーンは拡散されやすく、口コミが勝手に宣伝してくれる。ホラー映画のブームは、Z世代の消費行動と切り離せません。
しかし、「Z世代がホラー好き」という事実の裏側には、もっと深い、そしてもっと危うい構造が隠れています。
「ドゥームスクローリング」という静かな中毒
皆さんは「ドゥームスクローリング」という言葉をご存知でしょうか。コロナ禍の初期、「○○人感染」「○○人死亡」といった暗いニュースを、止められないと分かっていながら延々とスクロールし続けた、あの行為に名前がつきました。インターネットやSNSで、不安をかき立てるニュース、炎上、災害や事件の速報などを際限なく閲覧してしまう行為。それがドゥームスクローリングです。
数字を見ると、Z世代の深刻さが浮かび上がります。2024年の調査では、Z世代の約51%が定期的にドゥームスクローリングをしていると回答。ミレニアル世代の46%、米国成人全体の31%を大きく上回っています。さらに驚くべきことに、不安を抱えるZ世代の54%が、ドゥームスクローリングや過度なSNS利用を「不安への対処法」として行っていると認めているのです。不安を和らげるために、不安を増幅するコンテンツを消費する。矛盾しているようですが、ここに脳の仕組みが関わっています。
脳が壊れていくメカニズム「脱感作」のループ
SNSへの頻繁な接触は、脳のドーパミン経路を変化させます。研究者たちによると、その変化は薬物依存と類似したパターンを形成するといいます。前頭前皮質と扁桃体の活動が変わり、感情的な過敏性が増す一方で、意思決定能力は低下していきます。依存科学者はこのプロセスを「脱感作(desensitization)」と呼びます。脳が高レベルのドーパミンに慣れてしまうと、恒常性を保つために「ドーパミン欠乏状態」に陥ります。すると、日常の小さな喜び 、例えば友達との会話、散歩、美味しい食事などでは快楽を感じられなくなる。同じ「高揚感」を得るために、より極端で、より暴力的で、より衝撃的なコンテンツを求めるようになります。
ここで冒頭の話に戻ります。通常のエンターテインメントでは満足できなくなった脳が、より強い恐怖・衝撃・刺激を求めてホラー映画に引き寄せられる。心理学研究のレビューでも、ホラーを楽しむ人の特徴として「共感力が低く恐怖心が少ないほど、刺激追求傾向が強い」ことが示されています。Z世代のホラー映画人気は、「好み」の問題ではなく、「脳の状態」の問題かもしれないのです。
スクリーンの中から、現実の街へ
そしてZ世代の刺激追求は、スクリーンの中にとどまりませんでした。「ドアキック・チャレンジ」をご存知でしょうか。かつての「ピンポンダッシュ」の過激版です。無作為に選んだ家の玄関ドアを蹴り壊す勢いで叩き、住人が出てくる前に逃げる。その一部始終をスマホで撮影し、SNSに投稿する。「いいね」とフォロワーを稼ぐために。ピンポンダッシュなら、小学生の他愛ない悪ふざけで済みました。しかしドアキック・チャレンジではすでに死者が出ています。当局や専門家は強い警告を発しています。
さらにエスカレートした形が、「ティーン・テイクオーバー」です。ショッピングモール、公園、ビーチなどの公共の場所に、SNSを通じて組織された10代の若者たちが数百人から数千人規模で集まる。それが混乱、暴力、破壊行為、そして時には殺人にまで発展する事態が、アメリカ各地で報告されています。
ソーシャルメディア安全機構(OSAS)のマーク・バークマン代表は、こう分析しています。「TikTokなどが10代に過激な行動を『条件づけ』している。特に暴力的・性的な動画が注目を集めやすく、1日5時間以上も刺激的な映像を見続けることで、暴力や残虐さを『普通』だと錯覚するようになる」。
ドゥームスクローリング → 脱感作 → ホラー映画 → ドアキック・チャレンジ → ティーン・テイクオーバー。一本の線でつながっています。
「能動的に知る時代」と「受動的に浴びる時代」
ここで一歩引いて、大きな構造を考えてみましょう。Z世代は、生まれた時にはすでにインターネットがあり、物心ついた頃にはスマートフォンがある環境で育った最初の世代です。生まれた時から「情報の嵐」の中で生きてきました。インターネット以前の時代を思い出してください。何かを知りたければ、図書館に行き、本を探し、ページをめくって、自分が必要な情報を能動的に取りにいっていました。手間はかかりました。でもその分、知らなくてもいい恐怖や悪意に、不意に触れることは少なかったのです。
インターネットとスマートフォン以後、情報の流れは逆転しました。今はアルゴリズムが私たちの注意を引くために、つまり広告収入という利益のために情報を一方的に押し込んできます。しかも人間の脳には「ネガティビティ・バイアス」(否定的な情報により強く反応する傾向)があることを、テック企業は熟知しています。だから恐怖、怒り、衝撃的なコンテンツが優先的に配信される仕組みになっているのです。
社会は「能動的で参加型」から「受動的で消費型」に変わりました。Z世代はこの受動的な環境しか知らない、「能動的な情報取得を経験したことがない最初の世代」なのです。
これはZ世代だけの問題ではない
ここで留意していただきたいことがあります。今、このアルゴリズムに支配された情報過多の中で暮らしているのは、Z世代だけではありません。全世代が同じ環境の中にいます。ドゥームスクローリングをしているのも、Z世代だけではないはずです。現に、私の82歳になる義母も毎朝スマホを開き、気づけば数十分から数時間、暗いニュースをスクロールし続けています。そして画面から顔を上げて、「なんて世の中なんだろう」と嘆くのです。
研究でも、ドゥームスクローリングを続けることで実存的不安、悲観主義、そして自分自身の人生や将来に対する暗い見通しが強まり、人生の目的や意味について絶望感を抱くようになるという調査結果が発表されています。10代の若者も、82歳の義母も、同じアルゴリズムの中で、同じように恐怖を「餌」として与えられているのです。違いがあるとすれば、Z世代はその環境しか知らないということです。
何を変える?
暗い気分で生活するのを見直すために、まずできることから始めましょう。ニュースやSNSアプリの通知をオフにする。フィードのアルゴリズムを、恐怖・怒り・不安を煽るものから、満足感・希望・笑いが生まれるものへと意識的に変えていく。小さな一歩ですが、脳に与える「餌」を変える第一歩です。
最後に、有名な「二匹のオオカミ」の寓話をご紹介します。ある日、祖父が孫に人生について教えました。「私たち一人ひとりの心の中には、二匹のオオカミがいる。一匹は恐怖、怒り、絶望に満ちている。もう一匹は希望、平和、愛に満ちている。この二匹のオオカミは、いつも争っているのだ」孫が尋ねます。「おじいちゃん、どちらが勝つの?」祖父は静かに答えました。「おまえが餌を与える方だよ」
あなたは今日、どちらのオオカミに餌を与えますか?
参考文献:
