
「目は口ほどに物を言う」ということわざがあります。言葉に出さなくても、目の表情や視線が、言葉と同じか、それ以上に感情を伝えるという意味で使われます。でも、目が映し出すのは感情だけではありません。私たちの体の健康状態も、そこには表れています。
その典型が糖尿病です。2018年には、眼科医が30万人以上の患者について、本人が前糖尿病または糖尿病だと気づいていない糖尿病関連の眼の所見を最初に見つけた、という報告があります。血糖値が大きく変動すると、目の水晶体の曲がり方や形が変わり、血糖が落ち着くまで視界がぼやけることがあります。これを単なる疲れ目と思って見過ごしているうちに、高血糖によって眼の奥で体液が漏れ、血管が腫れ、異常な新しい血管ができてくることがあります。ここまで進むと、視力の低下や、最悪の場合は失明につながる恐れもあります。網膜の細い血管の出血や漏れは、本人が何も感じていない段階から、静かに始まっているのです。
そして、目の検査で見つかるのは糖尿病だけではありません。通常の血液検査ではとらえられない、もっと深刻な病気が姿を現すこともあります。
14歳の男の子の話をご紹介しましょう。彼の家族はみな視力が弱く、片頭痛の持ちも多かったため、彼が訴えていた頭痛も「いつものこと」と軽く見られていました。あるとき眼科医が眼底写真の撮影を勧めましたが、母親は必要とは思えず、しぶしぶ同意したそうです。ところが検査の結果、視神経に腫れが見つかり、彼は「偽脳腫瘍(特発性頭蓋内圧亢進症)」と診断されました。がんではありませんが、放っておくと危険な状態です。これで長引く頭痛の原因がはっきりし、治療によって眼の圧は正常に戻りました。視神経の腫れは、血液検査にはまったく表れません。目でしか見えないサインだったのです。
血液検査では見えにくい、自己免疫の病気
自己免疫疾患もまた、目の検査が手がかりになる分野です。
血液検査では、抗核抗体(ANA)、抗SS-A/SS-B抗体、リウマトイド因子、炎症の指標(CRP・赤沈)といった項目を調べます。どれも大切な手がかりですが、弱点もあります。病気があっても抗体が出ないことがあり、逆に健康な人でも抗核抗体が弱く陽性に出ることがあります。つまり「陽性=病気」とは限りません。さらに、抗体が現れるより先に、症状のほうが始まっていることもあるのです。
これによく当てはまるのがシェーグレン症候群です。免疫が涙腺や唾液腺を攻撃するため、しつこいドライアイやドライマウスが最初の、そして何年もの間、唯一の症状ということが珍しくありません。「目が乾く」と眼科を訪れて、そこで初めて背後の自己免疫疾患に気づくという経路をたどる人が少なくないのです。
強直性脊椎炎(HLA-B27という遺伝的体質と関わる病気の一群)も、目の症状が先に出ることで知られています。急性前部ぶどう膜炎(虹彩炎)といって、片方の目が急に赤く痛み、光がまぶしく、かすむなどの発作を繰り返します。この目の炎症が、腰や背中の痛みより何年も早く現れることがあり、若い人で再発するぶどう膜炎を見た眼科医が、HLA-B27の検査や専門医への紹介を考える、という流れは典型的です。
多発性硬化症も、血液検査ではつかまえにくい代表格です。視神経炎(視神経の炎症)が最初の症状になることが多く、片目の視力が落ちる、目を動かすと奥が痛む、色が鈍く見える、といった形で現れます。この病気は自己抗体の検査で確定できるものではなく、診断にはMRIや神経の所見が必要です。目の症状が全身の神経症状に先立ち、そこから精密検査へ進むというのはよくある道筋です。
「特別な人の話」ではありません
ここまでの例を「珍しいケースだから自分には関係ない」と思われたかもしれません。血液検査さえ受けていれば、わざわざ眼科に行かなくてもいいのでは、と。
けれど、この二つの検査は、そもそも見ているものが違います。
血液検査が測っているのは、血管を傷める原因や材料です。血糖値やHbA1c、LDLコレステロールや中性脂肪、腎機能の指標、炎症の値などは「血管にダメージを与える要因がどれだけあるか」を数字で示します。
一方、眼底検査で見えるのは、その要因によって血管が実際にどれだけ傷んだか、という結果のほうです。網膜の動脈が細くなっている、血管の壁が厚くなっている、出血がある、血の流れが落ちているなど、長年の高血圧や糖尿病が血管に残した「実害の跡」を、生きたまま直接目で確かめられるのです。
たとえるなら、血液検査は「家に湿気やシロアリの餌になる条件がどれだけ揃っているか」を調べる検査。眼底検査は「実際に柱がどれだけ傷んでいるか」を直に見る検査です。要因がそろっていても血管がまだ無事な人もいれば、数値はそこそこでも血管が傷み始めている人もいます。だからこそ、両方を見て初めて、体の状態が立体的に見えてきます。
しばらく眼科にかかっていないという方は、この機会にぜひ、信頼できる先生を見つけて、一度きちんと診てもらってください。ご自身の生活や気になっていることを伝えたうえで、目を通して体の状態を確かめる。それは、数字だけではわからない自分の健康を知る、確かな一歩になります。
参考文献
- https://www.aoa.org/healthy-eyes/whats-a-doctor-of-optometry
- https://www.aoa.org/AOA/Documents/Advocacy/HPI/HPI%20Timing%20into%20Comprehensive%20Optometry%20Eye%20Examination%20_Diabetes.pdf
- https://www.aao.org/eyenet/article/diagnosis-idiopathic-intracranial-hypertension
- https://www.aao.org/eyenet/article/understanding-managing-sjogren-syndrome-dry-eye
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC5295357/ - https://www.ahajournals.org/doi/10.1161/HYPERTENSIONAHA.113.01414
- https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/23868266/