脂肪脳

老人介護施設で働く友人がいるのですが、彼女はアルツハイマーなどの認知症を持つ患者さんには地位も名誉もないとよく嘆きます。このような患者さんの行動は想像を絶するようです。殺虫剤を食べてしまったり、便を食べてしまったり。コネチカット州の施設にいる母の友人もアルツハイマー患者で、政界や皇室との繋がりがあったことも全く忘れていて、彼女の様子を見に訪れる度に胸が痛みます。

過去10年間で、米国におけるアルツハイマー病患者数は著しく増加しており、2025年には65歳以上の米国人約720万人がアルツハイマー病を患っていると言われています。そして日本の厚生労働省が2022年6月に公表した「令和2年(2020)患者調査」では、継続的に医療を受けているアルツハイマー病の患者数は、推定79万4000人と報告されました。1996年には2万人という数字でしたが、2002年に8万9000人、2008年には24万人、2011年には36万6000人、2017年では56万2000人と急激に増加しています。

日本認知症協会のサイトには「アルツハイマー病患者の脳を解剖すると、そこには明確な特徴があります。それは全体的な萎縮と、脳の表面に大量に浮いた老人班と呼ばれる銀色のシミです。このシミはアミロイドβ(ベータ)という粘着質のたんぱく質でできています。」と書かれています。そして「アルツハイマー病の原因は脳のゴミだった。」と大きなタイトルが掲げられていますが、そのゴミはどうも脂肪の蓄積にあるようです。

パデュー大学の研究者が今年9月に発表した研究によると脳の免疫細胞に過剰な脂肪があると、アルツハイマー病に対する防御力が弱まるということが発見されました。免疫細胞は過剰に負荷がかかると、アミロイドβのような有毒なタンパク質を除去しなくなり、まさに彼らが防ぐべきダメージを加速させてしまうのです。開発中のほとんどのアルツハイマー病治療薬は、この病気の主な特徴であるアミロイドβタンパク質のプラークとタウタンパク質(アミロイドβが付着した神経細胞の内側で増加するたんぱく質)のもつれを対象としていますが、それが根本的原因ではなかったのです。

パデュー大学のガウラブ・チョプラ教授が率いるこの研究では、アルツハイマー病の脳では、プラークの近くにいる脳の免疫細胞、ミクログリアは、遠くにいるミクログリアの2倍の脂肪滴を含んでいることがわかりました。  これらの “脂肪で窒息した “免疫細胞は、アミロイドβタンパク質を除去する量が40%少なかったそうです。チョプラ教授の研究チームは、その原因を遊離脂肪酸を貯蔵脂肪(=中性脂肪)に変換するDGAT2と呼ばれる酵素に注目しました。  そして、アルツハイマー病の脳では、この酵素が分解されずに蓄積し、ミクログリア内に蓄積脂肪が過剰になることが判明されました。研究者たちが実験モデルでDGAT2を阻害したり分解したりすると、ミクログリアは力を取り戻し、プラークを除去して脳のバランスを回復したのです。

「アミロイドβタンパク質プラークやタウタンパク質のもつれを標的としても問題は解決しない。蓄積された脂肪は、免疫システムが仕事をしにくくし、バランスを保つのを難しくするので、余分な脂肪を取り除くことが鍵となります。これらの経路を標的にすることで、ミクログリアのような免疫細胞が病気と闘い、脳のバランスを保つ能力を回復させることができるのです。」とチョプラ教授は述べています。

昨年2月に発表されたスペインの研究では高脂肪食は脳と体内の主要なmiRNAのレベルを変化させ、アルツハイマー病の症状を加速あるいは悪化させる可能性があると述べています。miRNAは遺伝子の発現を調節する小さな分子で、以前お話したエピジェネティック(遺伝子発現)のことで、遺伝子のオン・オフを切り替える小さな分子スイッチです。

このように高脂質の食事を続けていると2型糖尿病や、心臓病、肥満などの生活習慣病になるだけでなく、脳にも影響が及び認知症を引き起こしてしまうことがわかりました。メディカル・メディアムの著者、アンソニー・ウイリアム氏は「肝臓が不健康になり、脂肪がついて脂肪肝になるように、脳も同じように不健康になり、脂肪がついて脂肪脳になってしまうのだ」と言っています。

脳や細胞膜の脂質バランスを乱す加工油(キャノーラ、大豆、トウモロコシ)を制限し、細胞のエネルギーと脂肪燃焼を改善してくれるCoQ10、PQQ、α-リポ酸、またミクログリアとニューロンの健康をサポートしてくれるオメガ3脂肪酸(EPA/DHA)、クルクミン、レスベラトロールなどの摂取をお勧めします。

参考文献

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