
以前にファスト・ファッションについてお話しました。ファスト・ファッションは、消費者に最新のトレンドを低価格で提供することが特徴のビジネスモデルですが、その一方で生産過程における水質汚染・大気汚染などの環境問題や安い賃金で長時間働かされるという労働問題に関する倫理的な懸念も生じています。また大量生産されるので、短期間で廃れるため、消費者は「使い捨て」のように扱う傾向があります。これが社会全体の廃棄物問題を悪化させる要因となっています。しかし、ファスト・ファッション=安価な服には消費者にも悪い影響を与えています。2024年、ドイツの専門誌『Oekotest』は、中国本土のファスト・ファッションブランド『Shein』の21の衣料品について無作為検査を実施しました。 これらのアイテムは、ベビーシューズからティーン向けのドレス、大人向けのフェイクレザージャケットまで多岐にわたりました。 検査の結果、3分の2のアイテムが安全基準を満たしておらず、ベビー服やサンダルなど一部のアイテムからはアンチモン、鉛、カドミウム、ジメチルホルムアミド、フタル酸エステルなどの有害物質が検出されたのです。
ネットで安い衣類を注文して、梱包を開けたときに異臭がしたことはないでしょうか? その臭いは上記に挙げた有害な化学物質が使われているからなのです。これらの物質は、製造過程で使われる化学薬品や材料から衣類や靴に残留することがあり、皮膚に触れたり、目、鼻、口から入ると長期的な健康リスクを引き起こす可能性があります。以下にそれぞれの物質について詳しく説明します。
1. アンチモン (Antimony)
アンチモンは、合成繊維や衣料の染色に使われることがある重金属です。特にポリエステルなどの合成繊維を製造する際に、アンチモンが触媒として使われることがあります。アンチモンは長期間の曝露により、呼吸器や消化器系に悪影響を及ぼすことがあり、発がん性が懸念されています。
2. 鉛 (Lead)
鉛は、特に装飾品やボタン、ジッパーなどの金属部分に使われることがあります。また、染料やプリントにも含まれている場合があります。鉛は神経系や血液系に深刻な影響を与える有害物質であり、特に小さな子供や妊婦に対して非常に危険です。
3. カドミウム (Cadmium)
カドミウムも重金属で、染料や装飾、ゴム製品などに使われることがあります。カドミウムは腎臓や骨に影響を与えるほか、発がん性があるとされています。特に安価な衣服や靴では、コスト削減のために安価な金属を使用することが多く、カドミウムが含まれる場合があります。
4. ジメチルホルムアミド (Dimethylformamide, DMF)
ジメチルホルムアミドは、靴や革製品の製造時に使用されることがあります。この化学物質は皮膚から吸収されることがあり、肝臓や腎臓にダメージを与えるほか、長期的な曝露で生殖機能に影響を与える可能性があります。また、呼吸器系に影響を与えることもあります。
5. フタル酸エステル類 (Phthalates)
フタル酸エステル類は、特に柔軟剤やプラスチック製品、ビニール製の靴や衣服に使用されます。これらは化学的に合成された物質で、内分泌かく乱物質として知られています。フタル酸エステルはホルモンの働きを乱すことがあり、生殖器官や発達に悪影響を与える可能性があります。
2011年に、アラスカ航空の客室乗務員が新しい制服を支給された後に、健康に異常を訴える事例が報告されました。この制服は、新たに導入された合成素材で作られており、その後、多くの乗務員がアレルギー反応やその他の健康問題を経験したとされています。具体的には、肌のかゆみ、呼吸困難、頭痛、めまい、さらには吐き気などの症状が報告されました。
この問題は、制服に含まれていた有害化学物質やフタル酸エステル類などが原因とされ、特に化学物質が新しい衣類に多く含まれていることが健康に悪影響を与えた可能性が示唆されました。これらの化学物質は、衣服の染色や防シワ、防水加工、その他の機能性を持たせるために使用されることが多く、皮膚や呼吸器系に影響を与えることがあります。
同じようなことが、デルタ航空でも起こりました。2018年、アメリカの著名なファッションデザイナー、ザック・ポーゼンはデルタ航空の客室乗務員の新しい制服をデザインしました。しかし、この新しい制服が支給された後、数人の客室乗務員が体調不良を訴える事態が発生しました。具体的には、アテンダントたちは頭痛、かゆみ、めまい、吐き気、さらには呼吸困難などの症状を報告しました。
制服のように、沢山の人が一度に着用することによって、有害化学物質の問題が表面化されましたが、原因が解らないで、上記のような症状を経験されている人も多いのではないでしょうか?これらの物質は長期的に健康に悪影響を与える可能性があるため、製品選びには注意が必要です。特に子供服には一層細かく配慮することが重要です。エコフレンドリーな選択肢や信頼できるブランドから購入することが、健康リスクを減らすための一つの方法といえるのではないでしょうか。
参考文献