ホルモン撹乱物質と性発達

プラスチック、殺虫剤、除草剤、界面活性剤などに使われる内分泌撹乱物質つまり環境ホルモンはたくさんのホルモンを作る内分泌系の機能(生体の恒常性,生殖,行動など)を微量でかく乱させ、野生生物やヒトへの危害を及ぼす物質です。そんなことは知っているよ~と言うかもしれませんが、沢山の人がプラスチックの水筒を使っていますし、プラスチックの容器に食べ物を入れて電子レンジで温めたりしていますよね。動物を用いた実験により、多くの化学物質が内分泌系の発達および機能を阻害しうること、それが行動、生殖、成長、生存、耐病性などに影響を及ぼしうることがわかっています。そして内分泌撹乱化学物質 (EDCs) の使用の禁止および規制の結果、野生動物の個体数の回復、健康上の問題の減少が見られたという報告も WHO、UNEP、国際労働機関が共同で発表したレポート 「内分泌撹乱物質の科学的知見に関する世界評価」に書かれています。しかしその危機感は殆どの人が全く認識していないように見うけます。工業用洗剤として使われている化学物質ノニルフェノール(略称NP)によってメダカのオスがメスの卵巣と同じ細胞が発達する「精巣卵」が見られるというメス化の奇形現象が起きたりしていることを皆さんご存じないのでしょうか?そしてこのようなことは人間には全く影響がないといえるのでしょうか?

性器の分化と発達は、内分泌系から分泌されるさまざまな性ホルモン(エストロゲンやテストステロンなど)の指導のもと、妊娠期間中ずっと続いています。男性にとっても女性にとっても、生殖器官の発達の全過程は、特に発達のある重要な時期に、性ホルモンのレベルの微細な変化に絶妙に敏感であると言われています。

生殖腺というのは、基本的に精巣や卵巣の別称で、男の子でも女の子でも、どんな赤ちゃんでも、「精巣になれ」という信号がない限り、基本的にこれらの生殖腺は卵巣になるようにあらかじめプログラムされているのです。もしあなたが男の子なら、そのシグナルはY染色体上の遺伝子から発せられます。この遺伝子はあなたの生殖腺に、卵巣の代わりに精巣となり、テストステロンとアンドロゲンの産生を開始するよう指令を出します。これらのホルモンは体内を巡り、細胞のレセプターと結合します。もし、アンドロゲン受容体の正常な働きを妨げる何らかの物質、環境破壊物質があれば、男性の外性器の男性化が不完全になる可能性が非常に高いのです。

エストロゲンは雌性ホルモンで、メス化を促す作用をもちます。エストロゲン受容体は、これ細胞のなかにあるため、エ ストロゲンは細胞膜を通過して細胞内へとはいります。EDCsがその類似物質で、やはり細胞膜を通過でき、かつエストロゲン受容体に鍵と鍵穴の関係で 結合でき、しかもスイッチをONの状態にすることができると、メス化が進行することが考えられます(オスにもこの受容体は存在します)。あるいは、アンドロゲン(雄性ホルモン)の類似体で、アンドロゲン受容体に結合し、アンドロゲンの結合を阻害することで、オス化を阻害し、結果としてメス化へと導く可能性も考えられます。

ヒトにおいて、視床下部の性分化の破壊の証拠を検出することは非常に困難ではありますが、肛門性器距離(AGD)すなわち直腸と陰茎の付け根の間の距離は、胎児期のアンドロゲン暴露の有用なバイオマーカーとなる可能性があり、その結果、脳の脱女性化/男性化に変化を与える可能性があると言われています。

出生前のアンドロゲンによる男性化により、AGDは女性より男性の方が長いのです。なので、男性のAGDが短いと、生殖能力、精子の質、循環アンドロゲンレベルが低下し、男性特有のプレーパターンが少なくなるのです。

アセトアミノフェン(パラセタモールまたはタイレノール)、ビスフェノールA (BPA)、DDTとその一次代謝物、ダイオキシン類、フタル酸エステル類、一部の有機リン酸エステル(OPEs)、ビンクロゾリンなどのジカルボキシイミド系殺菌剤に胎児が暴露されると、AGDが短縮し、その結果、視床下部-下垂体-性腺(HPG)の男性化が損なわれると考えられています。

そして同様に、女性の長いAGD は男性化の指標とプロゲステロン受容体(PR)の異所性胎児活性化は、強力なエストロゲンの超生理的投与と同様に、女性生殖器を男性化する可能性があるので、女性におけるAGDの長さの乱れには複数の作用様式があると考えられています。

内分泌かく乱作用を検出するために、AGD測定はOECD (経済協力開発機構) の試験ガイドラインやその他の規制当局の発達・生殖毒性試験戦略に追加されています。

心臓病に次いで米国内で2番目に多い出生時障害、尿道下裂。 新生児の男子の約125~250人に1人の割合で発生しているとカリフォルニア大学サンフランシスコ校の小児泌尿器科医で、非常勤のオークランド小児病院で尿道下裂の矯正手術を行っているローレンス・バスキン医師は述べています。陰茎の湾曲、尿道の異常、包皮の異常であり、これらを合わせたものが尿道下裂と定義されるものです。パスキン医師は「環境攪乱物質、環境中の何か、化学毒素、薬物などが、尿道下裂の危険因子であることは間違いない。」と述べています。また尿道下裂及び尿道上裂協会という2つの似たような性器疾患についての認識を高めるために活動している米国の団体が、その性器疾患の有無にかかわらず、およそ700人の男性を対象にオンライン調査を実施しました。その調査によると、尿道下裂の男性は、自分をゲイであると表現する傾向が15%高いことが判明しました。

そして最近の動物実験では、これらの化学物質がオスとメスの生殖に世代を超えた影響を及ぼす可能性があることが示されています。これらの化学物質への曝露は、出生前から成人期にかけて、将来の世代の生殖健康に悪影響を及ぼす可能性があるので、EDCsの使用については本当に慎重に気を付けないといけないと思います。性器は女性なのに男性化してしまう、またその反対も防げることができるのであれば、私たちの子孫を残していく上で、必要な常識となることを願います。

試験などでは EDCの血中濃度を測定していますが、一般的には検査はできない状況です。これが一般化すれば、どれだけ毒物に漬けられているかがはっきりわかるので、是非検査ができるようにしてもらいたいと思います。

参考文献

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC1281309/

https://education.nationalgeographic.org/resource/worlds-plastic-pollution-crisis-explained/

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/24793993/

https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S1532045621000296

https://www.nagasaki-clinic.com/environmentalhormone/

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5784425/

https://iris.who.int/bitstream/handle/10665/78102/WHO_HSE_PHE_IHE_2013.1_eng.pdf;jsessionid=26AFF119ED4F52AAB71AC1DD4A51B97C?sequence=1

https://academic.oup.com/endo/article/160/6/1421/5473530

https://rep.bioscientifica.com/view/journals/rep/162/5/REP-20-0596.xml https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4708138/ 




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