静粛な殺人者


すい臓がんは生存率が低いため、膵臓がんと聞くと怖くなる人が多いですよね。アメリカ癌協会によれば、現在、アメリカにおける癌による死因の第3位であり、5年生存率はわずか12%で、調査対象となった22種類の癌の中で最下位だそうです。膵臓癌の生涯発症リスクは59人に1人。では、膵臓がんの危険因子は何なのでしょうか?ボストンにあるダナファーバー癌研究所のウェブサイトによると、危険因子は以下の通りと書かれてあります。

1.喫煙 2.長期の糖尿病  3. 慢性膵炎(膵臓の炎症、特に喫煙者)4.55歳以上 5.肥満。

私は個人的に、膵臓がんで亡くなった人を5人知っていますが、(友人や家族)糖尿病を患っていた人は1人しかいませんでした。また肥満だった人も1人で、喫煙者はだれもいませんでした。5人の内、3人は55歳以上でしたが、1人は20代、もう1人は40代でした。つまり、これらの危険因子は、どれにも当てはまらない人の不安を和らげるものではないと思えるのです。がんは早期に発見すればするほど生存率が高くなることはご周知の通りです。では、膵臓がんの初期症状にはどのようなものがあるのでしょうか?ネットで「 膵臓がんの 症状」と検索すると、10以上の症状のリストが載っていますが、これらは他の症状である可能性も高く、医師はその症状と膵臓がんとの関連性を見落としやすいのです。なのでいつも言っていますが、自分の症状を突き止めるには、自分自身が主治医になる必要があるのです。

サリー大学とオックスフォード大学の2022年の研究によると、がんに関連する身体的指標には、体重減少と血糖値の上昇という2つの重大な変化が早期発見のカギとなると言われています。

急激な体重減少

余分なお肉がなくなって体重が減るのは嬉しい変化ではありますが、健康を害している可能性もあるのです。研究者たちは、8,777人の膵臓がん患者のデータを分析し、共同研究を通じて約35,000人の対照群と比較しました。すると研究者らは、膵臓癌患者の劇的な体重減少は、正式な診断を受ける2年前に起こっていたことが見つかり、診断された時の体格指数(BMI)は膵臓がん患者の方が3単位低かったとされています。3単位というと約10キロぐらい違うと言えます。。実際、膵臓がんで亡くなった個人的に知っている5人のうち3人は、短期間に何の努力もせずに体重が減っていました。その内の1人は元々肥満だったので、周りは痩せて良かったねと一緒に喜んでいました。

血糖値の上昇

「糖尿病を長期間患っていることは、膵臓癌の危険因子です。血液中のインスリン濃度が通常より高く、血糖値が高く、2型糖尿病による炎症が長期間続くからです」と、様々な集団における膵臓癌リスクの長期的研究を主導してきた南カリフォルニア大学のV.ウェンディ・セティアワン博士は言う。しかし、本当に注意しなければならないのは、糖尿病と突然診断された時だそうです。人によっては、糖尿病が長期的に膵臓にダメージを与えるのではなく、膵臓に問題があるために糖尿病が急速に進行することもあると言います。つまり、糖尿病は実は膵臓の腫瘍が原因かもしれないのです。膵臓がんと診断された人の約4人に1人は、最初に糖尿病と診断されているのです。また、糖尿病のない人の高血糖は、糖尿病のある人よりも膵臓がんのリスクが高いこともわかりました。

この2つの症状がみられた場合、さらなる検査を受けるかと思います。しかし、MDアンダーソンがんセンターのスレーシュ・チャリ医学博士は、新たに発症した糖尿病患者全員に膵臓の画像検査を受けさせることは、検査で異常が見つかってもがんではないことが判明した場合、不必要な経過観察の外科手術が多すぎることになるのではないかと懸念します。画像検査の代わりに、新たに開発された血液ベースのリキッドバイオプシー(液体生検)検査が膵臓がんの早期発見に一役買うかもしれないと言われています。

リキッドバイオプシーは、血液や体液を採取して得た検体を解析して、遺伝子異常の有無や種類などを調べる検査技術です。がん細胞が死滅すると、腫瘍から血流に放出され、そこでDNA、タンパク質、その他の細胞部分の断片が分解されて排出されます。リキッドバイオプシーは、これらの細胞片を検出することで機能します。先月の米国癌学会で、シティ・オブ・ホープ・デュアルテ癌センターの研究チームは、がん細胞や健康な細胞から血液中に排出されるエクソソームと呼ばれる特殊な小胞を分析する新しいリキッドバイオプシー法を開発したと発表。エクソソームとは直径わずか1万分の1ミリほどの「細胞外小胞」で、細胞内 の情報を運ぶ小さな袋のようなもので、ほとんどすべての細胞が分泌している ことがわかっています。

「エクソソームは、排出された細胞の細胞質を保持しており、基本的に排出元の組織の生理学的性質を反映しています」と研究グループの博士研究員であるカイミン・シュー医師は述べる。研究チームは、膵臓がんから排出されるエクソソームに特異的に見られる8つのマイクロRNA(低分子非コードRNA分子)を同定しました。そしてこれらのマーカーと、膵臓がん患者の血液から発見された5つのセル・フリーDNAマーカーを組み合わせ、膵臓がんに関連するシグネチャーを開発しました。

シティ・オブ・ホープ・デュアルテ癌センターの研究チームによって開発されたこの血液検査は、多種多様な人々の早期および末期の膵臓がんを正確に検出しました。その上、研究者たちがこの血液検査をCA19-9と呼ばれる検査(がん抗原19-9と呼ばれるタンパク質の量を測定する)と組み合わせると、97%の早期膵臓がん患者を正確に特定することができたと発表。「われわれは、エクソソームマイクロRNAとセルフリーDNAを組み合わせたエクソソームベースのシグネチャーを確立し、早期膵臓がん患者を確実にみつけられるようになりました」とカイミン・シュー医師は述べた。

膵臓がんがサイレントキラーにならないよう、この血液検査が普通の定期健診で受けられることを願います。

参考文献
https://ascopost.com/news/april-2024/an-exosome-based-liquid-biopsy-for-early-detection-of-pancreatic-cancer/

https://journals.lww.com/pancreasjournal/Abstract/2021/10000/Methylation_based_Cell_free_DNA_Signature_for.5.aspx

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33755268/

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37709492/

https://bjgp.org/content/71/712/e836/tab-article-info

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7694042/

https://clinicalepigeneticsjournal.biomedcentral.com/articles/10.1186/s13148-019-0650-0

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