
アセトアミノフェンという薬物成分をご存じですか?
アセトアミノフェンは発熱や痛みを抑える解熱鎮痛剤の代表的な成分の1つです。最近では、新型コロナワクチンの副反応対策に使える薬とアセトアミノフェンが紹介されたことから、その名前を耳にした方もいるかもしれません。
米国でも日本でもアセトアミノフェンは広く出回っていて、米国では何百種類もの風邪薬や咳止め薬に含まれているといわれています。しかし、まったく安全というわけではないのです。実際にアセトアミノフェンはその潜在的な危険性から、誤用されやすく、また自殺や意図しない中毒死にもつながっているので、最も頻繁に禁止または制限されている薬物の一つであると言われているのです。アセトアミノフェンを使用する薬剤の組み合わせを制限または禁止している国には、英国、ノルウェー、インド、アルジェリア、キルギスタンなどがある。
2014年に米食品医薬品局(FDA)は重篤な肝臓疾患を防ぐため、全メーカーに錠剤、カプセル、その他の投与単位あたり325ミリグラム(mg)を超えるアセトアミノフェンを含む処方薬配合製剤製品の販売を中止を勧告。これらの製品はすべて製造中止となり、もう入手できないのですが、必要な行政措置をとっていないメーカーがいくつか残っているそうです。
このような処置を置いているにも関わらず、米国国立衛生研究所が今年2月に更新した報告書によると、アセトアミノフェン毒性は、世界で2番目に多い肝移植の原因であり、米国では最も多い肝移植の原因であると書いてあり、また米国では年間56,000件の救急外来受診、2,600件の入院、500件の死亡の原因となっていて、その50%は意図的でない過剰摂取であるのだそうです。
意図的でない過剰摂取
6,000万人以上のアメリカ人が毎週アセトアミノフェンを摂取していると言われていますが、その多くはアセトアミノフェンが複合製品に含まれていることに気づいていないのが現状です。というのもアセトアミノフェンは多くのブランド名で販売されており、幅広い市販薬や処方薬の成分となっています。実際、アセトアミノフェンは約600種類の製品に含まれていると報告されているのです。
ニューヨークのスタテンアイランド大学病院で医療毒物学部長を務めるニマ・マジレシ医師はパーコセット、バイコディン、タイレノールPMなどの医薬品の誤用や、1日大量服用の危険性を認識せずに複数のアセトアミノフェン含有製品を服用することで、急性肝不全になってしまうと述べています。アセトアミノフェンを大量に服用すると、肝臓の分解が追いつかなくなり、有毒な副生成物が蓄積して肝細胞に障害を起こしてしまうのです。
また慢性疼痛と薬物使用の専門家であるケビン・ザカロフ医師によれば、オピオイドとアセトアミノフェンの併用薬を処方するすべての医師が、他のアセトアミノフェン薬を服用しないよう患者に徹底していないことが懸念されると言っています。そして米国で肝移植を必要とする殆どの人が、薬物乱用やその他の原因によって肝移植を必要としているのではなく、アセトアミノフェンの飲み過ぎによる『毒殺』によるものなのだとザカロフ氏は強調しています。
さらに、「医師がパーコセットを処方した時に、アセトアミノフェンが入っている他の薬を飲まないように注意してくださいと患者に言ったとしても、その患者はタイレノールがアセトアミノフェンの別名であることを知らないかもしれない。また、一般的な咳止め薬であるロビタッシンにアセトアミノフェンが含まれていることや、一般的なアレルギー薬、副鼻腔薬、片頭痛薬にもアセトアミノフェンが含まれていることを知らない人もいるだろう。そのことが、人々が意図せず過剰に薬物に触れてしまう……という状況を作り出しているのです」。とザカロフ医師は警告しています。
自殺
一般市販薬にアセトアミノフェンに含まれているということは、薬が手に入りやすく、自殺の手段にもなり得るのだそうです。
2019年に臨床毒性学という雑誌に発表された研究は、2000年から2018年にかけて、10歳から25歳までの自己毒殺による自殺が疑われた168万症例に関する米国毒薬センターのデータを調査したもので、自己毒殺後の重篤な医学的問題の発生率は年齢とともに上昇し、10~12歳の自殺未遂者の20%から22~25歳の28%に達したと言われています。「薬は家庭で簡単に入手できるため、多くの家庭では安全に保管するための予防措置がとられていません。今回の調査結果は、これが大きな問題であることを示唆しています」と、本研究の共著者であり、Nationwide Children’sの自殺予防・研究センターの臨床心理士兼自殺予防コーディネーターであるジョン・アッカーマン博士は述べています。
米国疾病対策予防センターの最近の調査によると、2019年から2021年にかけて、米国内の10歳から19歳の子どもたちの間で、アセトアミノフェンの毒性による自殺未遂が30%増加することが判明しました。このデータから、より低年齢の子どもたちの間でさらに憂慮すべき傾向があることが明らかになり、 10歳から12歳では73%、13歳から15歳の青少年では49%近く増加しているのです。
感情への影響
アセトアミノフェンは肝臓に悪影響を及ぼすだけでなく、感情にも影響を与えるという研究結果がでています。オハイオ州立大学心理学准教授、ボールドウィン・ウェイ氏による研究では、アセトアミノフェンはポジティブな感情もネガティブな感情も鈍らせることが判明しました。市販のアセトアミノフェンが「痛みと快楽を同様に」緩和し、利用者が感情的に快い感覚を経験する能力を本質的に減衰させることを明らかにしました。
2016年、ウェイ氏たちはアセトアミノフェンが「共感キラー」であることを発見したのです。共感性は向社会的行動や反社会的行動において重要な役割を果たすため、アセトアミノフェンによる共感性の変化は、広範な社会的副作用をもたらす可能性があるとみられています。
さらに2019年の研究では、ウェイ氏らはアセトアミノフェンは感情認識と意欲に関連する前部島と前部帯状回という脳領域の活動を低下させることで「社会的苦痛」を鈍らせると発表。肯定的な共感さえも、薬物によって鈍化するというのです。1,000mgのアセトアミノフェンを飲ませた後、他人の高揚体験に関するシナリオを読ませたところ、アセトアミノフェンによって、個人的な喜びや他人に対する共感的感情が減少したことから、アセトアミノフェンの広範な使用が、社会レベルでの向社会的行動に悪影響を及ぼしている可能性が再び示唆されました。
アセトアミノフェンは「評価処理の抑制」を引き起こすことも分かっているそうです。つまり、判断能力が変化し、反応が鈍くなったり、他の方法では気づくはずのミスを見逃したりする可能性があるともいわれています。
ASDとADHD
アセトアミノフェンを含む製品を、発育中の胎児に害を及ぼす可能性があることを知りながら妊婦に販売したとして、小売業者や製造業者を相手取った「タイレノール訴訟」がすでに何百件も起こされています。この訴訟とは妊娠中のアセトアミノフェンの使用が、自閉症スペクトラム障害(ASD)や注意欠陥・多動性障害(ADHD)の子供を生む原因になるというものです。
多地域訴訟に関する米国司法委員会(JPML)は昨年末、デニス・コート上級連邦地裁判事を任命し、増え続ける家族による訴訟を監督させ、コート判事は2023年12月、すべての連邦タイレノール自閉症およびADHD訴訟を統轄する特別裁判長を任命しました。
タイレノール多地域訴訟(MDL)の主任弁護士に任命された弁護士の一人であるマーク・ラニアー弁護士は、「現時点では、提訴された件数は数百件だと思います。すべてが終わったときには、数千から数万件の訴訟になると思います」と語っています。
ベビーパウダーと卵巣がんとの関連性の実証に貢献した疫学者、ロベルタ・ネス博士もこアセトアミノフェンとASD及びADHDの関係に警鐘を鳴らしています。女性の健康の専門家であり、自閉症司法に協力し、テキサス大学公衆衛生学部の元学部長であるネス女子は、2022年11月にUSAトゥデイ紙にこう語っています。「アセトアミノフェンが自閉症やADHDの原因だと言っているのではありません。アセトアミノフェンは原因の1つなのです。これは、予防可能であり、かつ原因かもしれない暴露を見つける最初の機会なのです」。
私たちに出来ること
「FDAが本当に慢性的なアセトアミノフェン毒物のリスクを減らしたいのであれば、配合剤(複数の薬効成分を一つの薬の中に配合した医薬品)をすべて排除し、必要な薬ごとに錠剤を飲ませるべきである。 この場合、患者は薬に含まれる1つずつの成分ごとに1錠の錠剤を服用することになり、これによって、混乱がなくなり、薬がより安全になります。」とアセトアミノフェンの過剰摂取についてマジェレシ医師はコメントしています。
そのような法律が確立してくれることを願いますが、現時点では私たちはきちんと薬について知っておくべきだと思います。市販薬だから安心と思いがちではありますが、その摂取量について正しく理解しているでしょうか?
また、メーカーや小売業者を鵜呑みにせずに、薬を購入する前に自分で調べることがまず必須であるということを認識して頂きたいと思います。
参考文献
https://www.reuters.com/article/painkillers-fda-idUSN3046243120090630
https://www.reuters.com/article/us-fda-acetaminophen-idINBREA0E01520140115
https://www.npr.org/templates/story/story.php?storyId=106161845
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK441917/
https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/15563650.2019.1665182