1950年代と60年代に比べるとその半分といわれていますが、アメリカでは毎年500件以上の扁桃腺摘出術が行われおり、小児外科手術の2番目によくおこなわれる一般的な手術と言われています。子供の頃に扁桃腺を切除するというのは日本そして世界中で行われています。扁桃を取り除く手術は、口蓋扁桃摘出術と呼ばれ、扁桃(のどの奥の左右のふくらみ、いわゆる扁桃腺。正確には口蓋扁桃という部位)を取り除きます。扁桃腺を取る理由としては、主に、①1年に数回程度繰り返す扁桃炎の原因になってしまっている。②大きくてつかえてしまい、睡眠時無呼吸症候群の原因になる。③IgA腎症という腎臓の病気になったときに、腎臓の状況の悪化を防ぐため。口蓋扁桃摘出術と同様に頻繁に行われるのが咽頭扁桃(いんとうへんとう)アデノイド切除術です。アデノイド切除が必要となるのは鼻呼吸が障害されて口呼吸になったり、睡眠が障害されて、睡眠時の無呼吸や酷いいびきが症状として現れたり、また鼻水が流れにくくなり、難治性の滲出性中耳炎を起こしたりするなどです。
手術は通常は3〜4歳以降に行われますが、症状が強い場合にはもっと低年齢でも行われています。アデノイド肥大は3〜6歳、口蓋扁桃肥大は5〜7歳で最大となり学童期の後半に次第に退縮します。個人差はありますが、好発年齢は2〜6歳で成長や発達の時期に関係しています。扁桃は免疫機能を担っているので切除したときの影響が心配されますが、1歳6か月を過ぎれば免疫機能には問題が起こらないといわれている為、多くの医師は、扁桃摘出術やアデノイド切除術が頻繁な喉の痛みや耳の感染を防ぐのに役立つと信じています。
しかし、今年6月にアメリカ医学会耳鼻咽喉科頭頸部外科雑誌は、手術には短期的な利益を上回る長期リスクが伴う可能性があると発表しました。これは、口蓋扁桃摘出術、アデノイド切除術またはその両方を受けた9歳未満の60,667人と手術を受けていない110万人のデンマークの子供を比較した最初の研究です。対象者は1979年から1999年の間に生まれ、研究員達は最大30年間の健康状態を追跡し、扁桃摘出術は、上気道疾患の相対リスクのほぼ3倍に関連していることを発見しました。上気道疾患の相対リスクとは喘息、インフルエンザ、肺炎および慢性閉塞性肺疾患(COPD)または慢性気管支炎および気腫などが含まれます。またアデノイド切除術は、閉塞性肺疾患、上気道疾患および結膜炎の相対リスクが約2倍に関連していました。
呼吸が困難な場合や、副鼻腔炎および耳の感染症の場合には、短期的な利点がありますが、手術後の長期的なリスクは有意に高くなり、また長期的にみると症状が復活してしまうこともあります。
「扁桃およびアデノイドがリンパ系の一部であり、免疫系の正常な発達、小児期および早期の病原体スクリーニングにおいて重要な役割を果たすことを考えると、それらの除去によって病原体の検出が損なわれ、後の呼吸器疾患および感染症のリスクが増大することは驚くべきことではない。」と研究者は述べています。
さらに研究者達は、寄生虫感染、皮膚疾患および眼の愁訴を含む28種類の疾患に対する感受性が高まっていることも発見しました。口蓋扁桃摘出術、アデノイド切除術または両方の手術を受けた患者の78%がこれらの症状を経験していました。このような症状は気道とは無関係ではありますが、扁桃腺の喪失や繰り返される軽度の感染症による免疫系への連鎖反応であることを示唆しています。このような影響は、年齢が高まるにつれてさらに顕著になる可能性と述べています。「私たちの研究により、口蓋扁桃摘出術やアデノイド切除手術後には長期的な疾患のリスクが上昇することがわかりました。その結果から小児期の正常な免疫系の発達を助けるために扁桃腺やアデノイドの除去を可能な限り遅らせることを支援する。」とこの研究の主任調査官であるシュアン・ベイヤー博士はコメントしています。
私の個人的な意見ですが、やはり人間の臓器には不必要なものはひとつもないと思っています。口蓋扁桃摘出術やアデノイド切除手術だけでなく、盲腸や胆のう摘出手術も一般化されてしまっています。病気というのはある一定の場所だけをみることが多いですが、疾患の治療は体全体にどのような影響が起こるのかをよく考えてするべきだと思います。今回の研究で明らかになったようにひとつの臓器を取り除くことでほかの部分に影響が起こります。なので一時しのぎの為ではなく、長い目でみたリスクも考慮にいれるようにしてください。已むお得ない事情もあるかと思いますが、特に小さいお子さんの場合はセコンドオピニオンとして代替医療や機能的医療の先生に相談してみてください。
参考文献
https://www.telegraph.co.uk/science/2018/06/07/having-tonsils-triples-risk-asthma-according-major-study/
http://www.greenmedinfo.com/blog/removing-childrens-tonsils-and-adenoids-increases-risk-28-diseases-study-finds