今や、子供から大人まで数多くの人がコレステロール低下薬を飲んでいますね。これはアメリカだけでなく、日本でも同じ現象がみられます。以下のリストはIMSというリサーチ会社が公開した2014年4月から2015年3月までの処方薬全売り上げトップ100の数字です。この数字からもおわかりのように、コレステロール低下薬のクレストロール(薬名:ロスバスタチン、製薬会社:塩野義製薬/アストラゼネカ)が2番目にきています。
またCDC(アメリカ疾病予防管理センター)が発行したアメリカの健康という2010年のレポートを基にした下記のグラフは1988年から2008年までのコレステロール低下薬の使用の割合を表しています。このグラフから男女かかわらす45歳以上の人は4人に1人の割合でコレステロール低下薬を使用していることがわかります。これは45歳以上の127千万人の人口の数です。
Source: http://www.health.harvard.edu/blog/statin-use-is-up-cholesterol-levels-are-down-are-americans-hearts-benefiting-201104151518 (30daysは30 yearsの間違いとみる)
この数字は驚くべき数です。この数字は多くの医者がコレステロール低下薬を処方することで、患者の健康を保たせると信じているという見解にいたります。読者の方は「もちろん、それが医者がすべきことである」とおっしゃるかもしれませんが、実はコレステロールは心臓病とはほとんど無縁であるという研究発表がすでにされているのです。事実アメリカ保健福祉省と農務省の諮問委員会が、5年ごとに発行している米国人の食生活に関するガイドラインの改訂で話し合った結果、2015年版アメリカ人の食生活ガイドラインの青写真となる報告書には「コレステロールは過剰摂取を懸念すべき栄養素とは見なさない」とする見解をまとめました。これまでコレステロールの多い卵やエビは摂りすぎないことがほとんど常識でした。ところが諮問委員会は、「食事からのコレステロール摂取量と血中コレステロール値の間に明らかな関連を示すエビデンスが十分ではない」として、これまでの1日300mgまでのコレステロール制限を廃止したのです。また日本でも厚生労働省が今年4月改訂の「食事摂取基準」でコレステロールの基準を撤廃し、日本動脈硬化学会も5月に、「食事で体内のコレステロール値は変わらない」との声明を発表しました。
成人の体内コレステロール量は100-150gで、そのうちの75%が肝臓で作られ、残りの25%は食事から作られます。また食事から多く取れば体内で作る量が減らされ、逆に少なければ体内でたくさん作られるというように、血液中の量をコントロールする調整機能が備わっているのです。なので、血液検査で表示される、血中コレステロールの数字には食事からの影響はまったくないと言えます。
今まで私たちはコレステロールを「敵」としてみてきましたが、実際には生体の細胞膜の必須成分なのです。特にコレステロールは認知機能にとって重要成分です。脳は体重の2%にしかすぎませんが、体内のコレステロールの25%が脳に集中しているのです。コレステロールは考えたり、新しいことを学び、記憶を形成することを可能にするシナプス形成(神経細胞同士の間の結合)に必須と言われています。なので、コレステロールの低下は認知機能および記憶力低下につながります。また低レベルのHDLコレステロールは、記憶喪失およびアルツハイマー病に関連しており、うつ病、脳卒中、暴力行為、及び自殺のリスクを増加させると言われています。
またコレステロールはエストロゲン、テストステロン、プロジェストロンなどの性ホルモンの原料となっており、(脂肪の消化を助ける)胆汁酸の産生も助けています。胆汁酸は、脂肪、コレステロール、およびグルコース代謝を調節するのに役立ちます。そして脂溶性ビタミンの吸収にも関与しているのです。脂肪は十二指腸で膵臓から分泌される消化酵素の「リパーゼ」によって消化されますが、胆汁酸は脂肪を水に溶けやすくしたり、リパーゼを活性化したりして、脂肪の消化吸収を促進していまるのです。
さらにコレステロールは、ビタミンDの原料になります。腸からカルシウムが吸収されるためにはビタミンDが無ければ吸収されません。そのビタミンDは何から作られるかというと、このコレステロールからなのです。コレステロールの大部分は胆汁酸に変換されます。ビタミンDは、胆汁酸がないと小腸で吸収されません。ビタミンDが吸収されないと、今度はカルシウムを吸収できません。胆石などで胆汁の分泌が不足している人は、骨粗鬆症になりやすいとされているのは、このためだと言えるでしょう。
「The Great Cholesterol Con(偉大なるコレステロール詐欺)」の著者、スコットランドのマルコム・ケンドリック医師は「コレステロール値が高ければ長生きし、低ければ寿命が縮まる」と断言しています。これは年配の人や女性に強く当てはまると言われています。
もしコレステロール値が高くて、掛かりつけの医者からその数字のみからコレステロール低下薬を飲みなさいと判断されたら、「結構です」と言ってことわりましょう。そしてその医者があなたの健康を取り戻し、そして保つためのアドバイスを正しくだしてくれているのか冷静に判断する時がきたと思ってください。
次回は心臓病の原因、予防そして処方箋について詳しくお話したいと思います。
参考資料
http://www.medscape.com/viewarticle/844317
https://www.bulletproofexec.com/why-doctors-finally-called-a-truce-on-cholesterol-in-food/